
産業にはさまざまな分野がありますが、大きく動脈産業と静脈産業に分けられます。似た響きの名称ですが、両者の役割は大きく異なります。それぞれのワードを聞いたことはあるものの、その性質を詳しく理解できていない人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、動脈産業・静脈産業の概要や、静脈産業が注目されている背景、それぞれの連携による事例をご紹介します。記事後半では、海外の現状や動脈産業との連携が求められる静脈産業の課題も解説するので、併せて参考にしてください。
目次
動脈産業・静脈産業とは?
動脈産業とは、自然から採取した資源を加工し、製品を生産・流通・販売する産業の総称です。経済や社会の発展に欠かせない商品やサービスを提供する役割を担う様子から、心臓から血液を全身に送る動脈に例えられてこの名前が付けられています。動脈産業には製造業やサービス業などが含まれており、供給チェーン全体の効率化が古くから試行錯誤されてきました。
日本の戦後の高度経済成長期は、一言で表すと「大量生産・大量消費」の時代でした。汚染物質や廃棄物が大量に排出され、公害が問題視されました。そこで注目を集めたのが静脈産業です。
静脈産業は、製造過程や消費過程で不要になった製品や資材を回収し、リユースやリサイクルを通じて再利用する産業の総称です。動脈産業が生み出す廃棄物を収集・分解・処分し有効活用する役割から、全身を巡った血液を心臓に戻す静脈に例えられています。代表的な産業には、リサイクル業界が挙げられます。

静脈産業が注目されている理由は?
静脈産業は、「循環経済ビジョン」という政策目標の策定と深い関係があります。
循環経済ビジョンとは、経済産業省によって策定された、循環型社会への移行を目指す取り組みです。資源の有効活用と再資源化、そして廃棄物の排出量削減を目指す戦略であり、その鍵を握っているのが静脈産業なのです。
通常の製造・消費のプロセスは「動脈産業から消費者へ」の一方方向ですが、静脈産業が動脈産業と連携を取ることで、資源の循環が促され廃棄物の排出量削減と再利用が可能となります。
動脈産業と静脈産業の連携強化がもたらすメリットは、環境負荷を低減できることだけではありません。循環型ビジネスモデルへの転換は、企業と事業の持続可能性と将来にわたっての競争力を同時に高める効果があります。環境に優しい取り組みとしてのみ静脈産業を促進するのではなく、環境と経済の両方の好循環につながる新たなビジネスチャンスと位置付け、事業モデルに組み込んでいくことが重要です。
【事業別】動脈産業・静脈産業の連携による事例
以下に挙げる事業別に、動脈産業・静脈産業の連携による事例をご紹介します。
- 鉄鋼業
- セメント製造業
- 建設業
- 電気事業
- 自動車製造業
- 製糸業
それぞれの事例を詳しく見ていきましょう。
鉄鋼業
動脈産業の代表例ともいえる鉄鋼業では、鉄鋼の生産に関わる副産物が100%近い水準で再資源化されています。再資源化されたものは、主にセメント原料や建築資材、土木用材、道路用材などに利用されています。
リサイクル率の目標値が定められているスチール缶のリサイクル率は90%を超えており、世界トップレベルの水準です。鉄鋼業の再資源化に関しては、グリーン購入法が中心となり環境整備などが行われています。
セメント製造業
セメント製造業ではセメント製造の特性を利用し、さまざまな業界から排出される鉄鋼・電力・建設・タイヤ・鋳造・下水汚泥・焼却灰などの廃棄物や副産物を受け入れています。
これらをセメント製造の原料やエネルギー源にしており、天然資源の利用を抑制し、最終処分場の使用可能期間を延ばすことが可能です。
建設業
建設業では、建設工事や解体工事に伴い大量の建築廃棄物が排出されます。このうち利用可能なものは、建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)に基づき、リサイクルや再資源化が促進されています。対象となる建設廃棄物は、以下の通りです。
- 建設発生土
- コンクリート塊
- アスファルト・コンクリート塊
- 建設発生木材
- 建設汚泥
- 建設混合廃棄物
上記の項目は法整備により再資源化が進められている一方で、建設汚泥や廃石膏ボード、廃プラスチック類などはその水準に満たないので、リサイクル活動のさらなる強化を目指しています。
電気事業
電気事業連合会によると、2022年度の廃棄物発生量は1,053万トン、このうち1,012万トンが再資源化されました。再資源化率は96%と高い水準を誇っており、達成目標である95%を上回っています。
電気事業から排出される廃棄物は石炭灰が多く、セメントの原料やコンクリート用混和材などに再資源化されています。その他、金属くずやがれき類はそのほぼ全量を再資源化しており、業界全体で再資源化が促進されている点が特徴です。
※参考:電気事業連合会「循環型社会の形成」(入手日付2024-04-16)
自動車製造業
部品や材料を多用し、それに伴い大量の廃棄物が排出されるのが自動車製造業の特徴です。
最終処分量を削減するために、特に廃プラスチック類の再資源化を積極的に進めています。その他、製品設計の初期段階から廃棄物の排出量を減少させる工夫を凝らし、リサイクルしやすい素材を用いる、分解しやすくするなどの施策が実施されています。
製紙業
製紙業では、木材からパルプを生成する際に発生する廃液や木くず、有機性スラッジなどからなるバイオエネルギー、そして廃タイヤやRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel:紙くずと廃プラスチックの燃料)などの可燃物廃棄物を用い、製紙におけるエネルギー消費を抑える取り組みを実施しています。
海外の静脈産業の現状
ここでは、海外の静脈産業の現状を見ていきましょう。日本とは異なった様子が見られるので、参考にしてみてください。
海外では地域に根ざした中小の静脈企業が多いものの、「メジャー」と総称される大企業も存在し、静脈産業内で大きな存在感を放っているのが特徴です。
メジャーは廃棄物の収集運搬・処分、中間処理、再資源化、最終処分に至るまでの一連の流れを一社で完結させ、静脈産業内の垂直統合を目指しています。垂直統合は、情報をスムーズに伝達させられる、中間マージンを削減できる、事業全体のプロセスを効率化させられるなどの点がメリットです。
またメジャー各社は、自社のノウハウや技術、経営母体を活用し欧米以外にもインフラレベルが高くない地域やアジア地域にも事業を展開しています。こうした地域までビジネスを拡大させ、長期視点で投資資金を回収しようという計画です。
一方の日本は、静脈産業内の売上の大半を小規模の事業者が占めており、売上高の大きい大手企業も数社程度見受けられるものの、他の産業と比較すると大手企業が与える影響力は小さめとなっています。
動脈産業との連携が求められる静脈産業の課題
静脈産業は、環境負荷を低減しつつ事業活動の持続可能性と競争力を高める効果があり、動脈産業との連携が求められています。しかし、そこには以下に挙げる課題があるのも事実です。
- 静脈産業の技術・プロセスが体系化されていない
- 有効活用に向けたデジタル化が遅れている
まず挙げられるのが、静脈産業の技術・プロセスが体系化されていない点です。ビジネスやサービスを横展開させ一定レベル以上の品質やレベルを顧客に提供する動脈産業と異なり、静脈産業では体系化されていない分、ビジネスを拡大するのが難しくなります。
また静脈産業では、情報の有効活用に向けたデジタル化が遅れている点も課題です。近年は徐々に改善傾向が見られるものの、今後は動脈産業からの情報提供をさらに促進する、静脈産業内の情報連携を強化するなどの対策が求められていくでしょう。
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