非定常作業の例や注意点を解説。重大事故を防ぐには

非定常作業の例や注意点を解説。重大事故を防ぐには

前回のコラムでは『産業廃棄物処理業界の労働災害発生率の高さ』について解説しました。

今回は、更にリスクが高まる非定常作業を題材として、修理メンテナンス作業における挟まれ・巻き込まれ災害を取り上げて説明します。

残念ながら、年明け早々に愛知県の清掃リサイクルセンターで、男性従業員がごみ焼却炉内の作業中に、ごみを押し出す機械(プッシャー)と焼却炉の壁に挟まれ死亡する事故が発生してしまいました。
原因は究明中だと思いますが、非定常作業における重大事故がなくなることを願い、このコラムを掲載したいと思います。

災害統計における「挟まれ・巻き込まれ」による事故

全産業における災害統計は毎年5月に更新されます。
2021(令和3)年のデータによると、全産業における死亡者数は867名。
事故の型別による挟まれ・巻き込まれの死亡者数は135名(16%)で、墜落・転落217名(25%)に続き、2番目に多い災害となっています。

業種別では下表のとおりです。
製造業では、挟まれ・巻き込まれによる死亡が54名(39%)でトップで、産廃業においては実に50%が挟まれ・巻き込まれによるものとなっています。

転落・堕落 挟まれ・巻き込まれ その他
建設業 110(38%) 27(9%) 151(52%) 288(100%)
製造業 25(18%) 54(39%) 58(42%) 137(100%)
産廃業 3(19%) 8(50%) 5(31%) 16(100%)
全産業 217(25%) 135(16%) 515(59%) 867(100%)
挟まれ事故・転落事故のイラスト

挟まれ・巻き込まれ事故(特に重大事故)の多くは、修理メンテナンスなどの非定常作業によるものと思われます。

昨今の類似災害発生事例

それでは実際にどのような災害が発生しているのでしょうか?
2021年9月~2022年12月に発生した重大事故のうち、メンテナンス中に停止していた機械が何らかの要因で稼働したことに起因すると思われるものは以下のとおりです。

  1. 兵庫県西宮市のボウリング場で、修理中に上昇したピンセッターに挟まれて重傷を負った
  2. 新潟県長岡市の精米工場で、部品交換中のメンテナンス会社従業員が感電死した
  3. 兵庫県丹波市のプラスチック加工工場で、食品トレーのプレス加工機に挟まれて死亡した
  4. 福島県双葉町の中間処理施設で清掃中のミキサーの刃に挟まれ、足に重傷を負った
  5. 兵庫県神戸市の製鉄工場でコンベア検査中にベルトとプーリーに巻き込まれ死亡した
  6. 東京都中央区の高層ビル地下で、立体駐車場の点検作業中に胸を挟まれて死亡した

これらは一部に過ぎません。なぜ、類似災害が繰り返し発生しているのでしょうか?

労働安全衛生規則 第107条(掃除等の場合の運転停止等)

類似災害は、どうすれば防げるのでしょうか?
まずは、労働安全衛生規則を確認してみましょう。

第百七条 事業者は、機械(刃部を除く。)の掃除、給油、検査、修理又は調整の作業を行う場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、機械の運転を停止しなければならない。ただし、機械の運転中に作業を行わなければならない場合において、危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じたときは、この限りでない。
2 事業者は、前項の規定により機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に錠を掛け、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等同項の作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない。

労働安全衛生規則 – 第百七条(掃除等の場合の運転停止等)

機械の運転を停止し、容易に起動できないようにすることが基本です。運転中に作業を行わなければならない場合は、物理的に接触しないような措置を講じる必要があります。労働災害が発生する不可欠な2つの要素は、人とエネルギー(電気や化学物質など)になります。  
つまり、エネルギーを制御することが有効なリスク管理策となります。

参照:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則

事実上の世界標準

労働安全衛生管理が国際規格ISO45001になった現在、国際標準ではどのように定められているのでしょうか?
世界基準を確認してみましょう。

ロックアウト・タグアウト(米国のOSHA基準)

事業者は、全ての従業員が機械装置のサービス/メンテナンスを実施する前に、予期せぬスタートアップ、起動、または蓄えられたエネルギーの放出が起き、障害の原因となる機械装置がエネルギー源から切り離されて、作動しないようにすることを確実にするためのエネルギーコントロール手順を定め、従業員教育および定期的観察から成るプログラムを確立しなければならない。   

ロックアウト・タグアウトのステップ

  1. 対象設備には、どのようなエネルギーが供給(存在)しているのかを特定する。
  2. どのような非定常作業が実施されているのかをリストアップする。
  3. その際にエネルギー源をどのようにロックアウト・タグアウトするのか、手順を作成する。
  4. 非定常作業の実施者へ、上記①~③を教育する。

世界の優良企業はどのような安全文化を構築しているのか:デュポン社の合言葉LTCTの紹介

  1. L:ロックアウト
  2. T:タグアウト
  3. C:クリア(残留エネルギーの放出)
  4. T:トライ(実際に起動スイッチを押して、機械が停止していることの確認)

日本は世界標準から遅れを取っているのでしょうか?
再び労働安全衛生規則をみてみましょう。

労働安全衛生規則 第339条(停電作業を行う場合の措置)

事業者は、電路を開路して、当該電路またはその支持物の敷設、点検、修理、塗装等の電気工事の作業を行うときは、当該電路を開路した後に、当該電路について、次に定める措置を講じなければならない。

第1項:ロックアウト・タグアウト

回路の開閉器には、作業中、施錠し、もしくは通電禁止に関する所要事項を表示し、または監視人を置くこと

第2項:クリア(残留エネルギーの放出)

開路した電路が電力ケーブル、電力コンデンサー等を有する電路で、残留電荷による危険を生ずるおそれのあるものについては、安全な方法により、当該残留電荷を確実に放電させること

第3項:トライ(実際に起動スイッチを押して、機械が停止していることの確認)

開路した電路が高圧または特別高圧であったものについては、検電器具により、停電を確認し、かつ誤通電、他の電路との混触または他の電路からの誘導による感電の危険を防止するため、短路接地器具を用いて確実に短路接地すること

日本の関係法令も、世界標準に整合していることが分かりました。
では、どうしたら順法が定着するのでしょうか?

再発防止対策を有効に機能させるための安全文化の構築に向けて

メンテナンスなど非定常作業における挟まれ・巻き込まれ災害を防止する項目の再確認

  1. 非定常作業の世界標準であるロックアウト・タグアウトのプログラムを確立する。
  2. 常に不要なエネルギーを特定して、制御することを実践する。
  3. リスクアセスメントを実施して、エネルギーを制御する手順を構築し、その内容を教育する合言葉であるLTCT(ロックアウト・タグアウト・クリア・トライ)を定着させる。


※ 上記①~③を定着させるためには、安全文化の醸成が最重要となる。

安全文化を醸成するために必要なこと

  1. エネルギーを特定して、制御することは、手軽ではなく、手間がかかることであることを全員が認識する。
  2. LTCT(ロックアウト・タグアウト・クリア・トライ)を実践するには、単に禁止札を掛ける操作に比べて、5~10倍の時間を要するが、それを標準時間と理解する。
  3. 「忙しいから今日はいいか!」と一度でも手抜きすると、なし崩し的に一気に安全文化は崩壊する。
  4. 崩壊させないためには、各拠点のトップの強い決意が絶対条件であることを肝に銘ずる。

最後に

非定常作業メンテナンス中に類似事故が繰り返し発生していること、対策としてはLTCT(ロックアウト・タグアウト・クリア・トライ)を定着させることが有効であり、そのためには各拠点のトップが強い決意を持って臨む必要があること についてご理解頂けたかと思います。

また、修理・メンテナンスなどの非定常作業は、自社の従業員だけでなく、外部委託業者の従業員も従事することが多いと思われます。事前の打ち合わせを十分に行った上でコミュニケーションを取りながら細心の注意を払って行うようにしましょう。

私たちの仲間や家族を不幸にしないために、非定常作業における重大事故がなくなることを願っております。


DXE株式会社資料DL

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