
今回のコラムは「リスク管理/安全管理」に関するもので、主に工場における労働災害の防止についての第3弾になります。関連するコラムは以下になります。
今回は大型薬液タンクの修理・メンテナンスおよび解体に際しての労働災害の防止についてご説明します。
目次
産業廃棄物処理に必要な薬品って?
産業廃棄物処理に必要な薬品として代表的なものは、硫酸、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、次亜塩素酸ナトリウムなど、いずれも薬傷につながる危険な薬品です。
特に焼却設備を有する工場や大規模な中和処理を行う工場では、構内に設置される薬品タンクは大型になります。
また、経年劣化に伴う配管工事や定期的なタンク本体の入れ替えも必要となります。
自主保全で工事を行うにしても、外部業者に工事を委託するにしても、誰にも薬傷をさせない様、万全な安全対策を行い、企業の安全配慮義務を全うしなければなりません。

安全対策

作業計画をたてる(準備と段取り)
(1)SDS(安全データシート)
(2)耐薬品性ドラム(タンク内残留在庫品の一時保管用):使用前に水充填等で漏洩点検実施
(3)耐薬品性保護具:手袋、眼鏡(保護面)、マスク、安全長靴、エプロンなど
(4)緊急事態想定:薬傷(緊急シャワー、緊急連絡)・漏洩(中和剤、漏洩時の回収資材等)
リスクアセスメント(化学物質含む)を実施する
(1)タンクの配置から混触リスクを確認する
最新の配置と利用状況を確認するとともに、防液堤の損傷の有無なども確認する必要があります。
(2)SDSから危険性・有害性を確認して、リスクを定量的に評価する
対象となる工場では既に共有されているものと思われますが、関係者全員に周知徹底します。
SDSは厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で確認することができます。
●硫酸:H₂SO₄
SDS https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0626.html
濃硫酸を希釈するときは、必ずかき混ぜながら水に濃硫酸を少しずつ注がなければならない。逆の操作を行うと、加えた水が急激に沸騰し、周りの硫酸を飛散させる。
●水酸化ナトリウム(苛性ソーダ):NaOH
SDS https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1310-73-2.html
皮膚についたり、眼に入ったりすると大変危険。水をかけたりすると突沸して飛散することがある。
●次亜塩素酸ナトリウム:NaOCl
SDS https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7681-52-9.html
硫酸・塩酸などの強酸性物質(トイレ用洗剤など)と混合すると、黄緑色の有毒な塩素ガスが発生する。換気を良くして使用量を最小限に留める。
耐薬品用ケミカルを準備する:ドラムタンク内残留在庫品の一時保管用


スイコータンクやパワートートタンクでも代用できます。
使用前日から水を充てんしておき、漏洩がないかどうか、使用前点検を行うこと
緊急時を想定し訓練を実施する:薬傷、漏洩・流出、異常反応等
危険予知活動で不安全行為の未然防止を行っていても、緊急事態が発生することがあります。
保護具(手袋、眼鏡(保護面)、マスク、安全長靴、エプロンなど)も完全ではありません。
緊急時は冷静な判断が出来なくなり、咄嗟の思い付きの行動が二次災害を招くこともありますから、出来るだけ考えられる緊急事態を想定して、対応手順を示して、訓練を行うことが重要になります。
(1) 薬品が皮膚に付いた場合の応急措置
① 1秒でも早く流水(温水が望ましい)で洗浄するのが最善の応急措置です。医務室や病院へ行く前に、酸の場合には最低15分間、アルカリの場合は30分間流水で洗浄する。洗浄完了の見極めはpH試験紙で中性になっていることを確認する。よって、pH試験紙は常時携帯するのが望ましい。
② 広範囲の場合には、ホースで水道の水をかけながら、着ているものを脱がせ、更に水で洗い流す。
いずれの場合も、洗い流すだけで、擦らないように注意する。皮膚洗浄終了後、酸・アルカリが付着した衣類は廃棄するため、ロッカーには、常に着替えの衣類(下着・作業服・靴下等)を用意しておくのが望ましい。
(2) 漏洩流出時の緊急対応
① 指揮責任者は社員を召集して、連絡係・措置係などの担当を指名する。ただし、人的被害が発生している場合は、人命救助を最優先とする。
② 液流出の場合は、常備している土嚢を活用(構内堰堤・社外水路遮断など)し、社外流出・被害拡大の防止処置と流出液回収を速やかに行う。
③ 酸性液には炭酸ソーダ粉末を、アルカリ性液には水で300~500倍に希釈した希硫酸を、過剰にならないように使用して中和する。
④ 最終的には、水による場内洗浄と洗浄水の回収を行い、社外水路等へも希釈が必要な場合は、水道水放流を継続する。
緊急用備品として受け皿やバケツは必需品です。
(3) 入槽作業の場合
内部の危険源(電気ケーブル、深さ、貯留物など)を特定し、リスクアセスメントを行うとともに、作業前の槽内点検を実施して、槽内の破損等による外部への有害物の流出を防止し、環境に対する被害が起きないようにする。


点検は、次の事項に注意して実施すること
① 必要備品(酸素/ガス濃度計・送風機・点検道具・エアラインマスクなどの保護具)を準備すること
② 安全の確保(酸素・有害ガス濃度の測定、有資格者・監視員の配置、保護柵・禁止札の設置など)を十分に行い、危険表示(墜落や酸欠への注意喚起、火気厳禁、関係者以外立入禁止等)を実施すること
③ 酸素欠乏および硫化水素から回避するための換気および酸素・硫化水素濃度測定に加え、昇降方法など各槽の特性に合わせた作業手順を作成して、その手順を順守して作業を行うこと
④ 酸素欠乏危険作業主任者を選任して、現場に掲示すること
大型タンクの場合、他にも楊重作業や高所作業など、危険な作業を伴う場合があります。
(4) 連絡体制・連絡先の確認
万が一人身事故や社外流出などの重大事故が発生してしまった場合、関係者に加え、警察・消防・病院・行政等に連絡して対応する必要があります。操業に影響があれば取引先についても同様です。
災害事例
災害事例についてもSDS同様に厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で確認することができます。
●硫酸:H₂SO₄
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101326
●水酸化ナトリウム(苛性ソーダ):NaOH
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=100886
●次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ):NaOCl
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=100681
【当社関係会社の事例】
苛性ソーダ廃液貯留槽内で清掃作業中、タイベックススーツと長靴の隙間から苛性ソーダ廃液が侵入し、左足脛部に薬傷を負った。
対策:ガムテープでしっかりと隙間の養生を行う

最後に
今回は非定常作業の中でも非常に危険な「大型薬液タンクの修理・メンテナンスおよび解体」について取り上げました。
同様の作業を行う会社はそれほど多くないと思いますが、危険な非定常作業を行う際には、以下の手順を踏んでから実際の作業を行うことが望まれます。
(1) SDSやタンク配置図など、事前情報を把握した上で最適な作業計画を立案する。
(2) ケミカルドラムや保護具など、必要な備品を準備する。劣化などがないか確認する。
(3) 緊急時を想定した訓練(シミュレーション)を実施する。
また、作業計画や緊急時の対応は関係者全員で共有して作業に臨み、想定外の事態が発生した際には一旦作業をストップして対応を協議する必要があります。(それが可能になるような監視人の配置も必要です)
それでは、非定常作業における重大事故の撲滅もしくは軽減につながることを願っております。

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