
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成に向けて、環境保全に関する取り組みやリサイクル促進の動きが活発化しています。企業として利益のみを追求するのではなく、社会的な活動も充実させようと考えている担当者もいるでしょう。その取り組みの一つとして、まずは廃棄物を適切に処理することが挙げられます。
しかし実際のところ、事業活動に伴い生じたごみが廃棄物に該当するか否かを判断するのが難しいケースもあります。廃棄物であるにもかかわらず適切な処理を怠り、法律違反となった事例もあるので、正しい知識を押さえておくことは重要です。
そこで本記事では、廃棄物の定義を深掘りし、判断基準となる客観説と総合判断説について解説します。 記事後半では、廃棄物かどうかを見極める5つのポイントもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
廃棄物の定義とは?
清掃法を全面改定する形で1970年に公布された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(通称:廃棄物処理法)」では、廃棄物を以下のように定めています。
ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。 – 廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第一章第二条第一項 |
上記のように、廃棄物の定義は法律で具体的に定められています。不要となる廃棄物は、占有者に処理を一任するとぞんざいに扱われ、排出事業者の周辺住民や自然環境に悪影響を及ぼす恐れがあるためです。将来的に再生資源として利用する、もしくは有価譲渡する予定でも、それ以前は価値を持たないため廃棄物として処理する必要があります。
なお、廃棄物は大きく「一般廃棄物」と「産業廃棄物」の2つに分類できます。それぞれの定義や違い、具体例、よくある質問などは以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
出典:e-Gov法令検索. 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律 」(入手日付2023-12-05).

廃棄物に該当する?判断基準を2つの説から解説
日々行う事業で排出されたごみについて、「これは廃棄物に該当するのだろうか」と迷ったことのある方もいるのではないでしょうか。
ここでは廃棄物か否かを判断する際に役立つ「客観説」と「総合判断説」をご紹介します。
客観説
廃棄物処理法の施行当初の考え方では、廃棄物か否かは客観的に判断可能とされていました。1971年に出された厚生省環境衛生局長通知では、以下のように記されており、これを客観説といいます。
廃棄物とは、ごみ、粗大ごみ、汚でい、廃油、ふん尿その他の汚物又はその排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができるものであつて、気体状のもの及び放射性廃棄物を除く、固形状から液状に至るすべてのものをいうものであること – 廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について(昭和46年10月16日環整第43号厚生省環境衛生局長通知) |
客観的に判断できるということは、傍から見て「不要である」と判断されたものは全て廃棄物として処理されることを意味します。これでは、資源として再利用できる貴金属を含む汚泥・廃酸・廃アルカリなども廃棄物に分類されてしまうため、リサイクルの促進が妨げられる可能性があります。
出典:環境省 「廃棄物の定義について」(入手日付2023-12-05)
総合判断説
曖昧な基準で廃棄物と一概に判断すると、さまざまな不都合が生じ得ます。そこで1977年に厚生省環境衛生局水道環境部計画課長による通知で、以下に示す総合判断説の考え方が示されました。
廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却することができないために不要になつた物をいい、これらに該当するか否かは、占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべきものであつて、排出された時点で客観的に廃棄物として観念できるものではないこと – 廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について(昭和52年3月26日環計第37号厚生省環境衛生局水道環境部計画課長通知) |
これによれば、廃棄物か否かは社会通念を基に客観的に判断するだけでなく、排出者の意思を汲み取りつつ、性状も考慮して判断する必要があるとされています。貴金属を含む汚泥・廃酸・廃アルカリなどは客観説では廃棄物に分類されますが、総合判断説では金銭的利益が生じる有価物としても処理可能です。
出典:環境省 「廃棄物の定義について」 (入手日付2023-12-05)
番外編:おから裁判(廃棄物に関する裁判事例)
ここでは番外編として、廃棄物に関する裁判事例「おから裁判」をご紹介します。この裁判では、食品として売られている豆腐や豆乳の副産物であるおからは、廃棄物と有価物のどちらに分類されるのかが争点となりました。

ある事業者Aは、豆腐製造業者が排出したおからを処理料金を受け取った上で収集・運搬し、肥料・飼料化の処理を行っていました。事業者Aは産業廃棄物処理業の許可を持っていなかったため、もしおからが産業廃棄物に該当するとされた場合は、無許可で廃棄物の処理を行ったとして廃棄物処理法違反に該当します。
裁判にて事業者Aは「おからは有価物であり不要物ではない。そのため産業廃棄物として処理する必要はない」と主張しました。
これに対して最高裁判所は、事件当時に有価物として取引されていたおからの量はわずかであり、大部分は飼料として無償で引き渡されるか、廃棄物処理業者に有償で処理が委託されていたこと、また事業者Aが豆腐製造業者から処理料金を徴収していた事実などを踏まえ、この件のおからを「不要物にあたり、産業廃棄物に該当する」と結論づけました。
この裁判の重要な点は、あくまで「この件の」おからが産業廃棄物とみなされた、ということです。これがもしも、食品製造メーカーが原料として仕入れたおからであれば「有価物」として扱われたでしょう。
様々な事情を考慮した上で判決が下されたこのおから裁判は、その後、総合判断説の代表的な例となりました。
廃棄物かどうかを見極める5つのポイント
事業活動に伴い排出されるごみが廃棄物かどうかを見極める際は、以下の5つのポイントに基づいて判断してください。
- 物の性状
- 排出の状況
- 通常の取扱い形態
- 取引価値の有無
- 占有者の意思
上記の5つのポイントに基づき、有価物か廃棄物かの判断が下されるので、排出事業者の方は押さえておきましょう。なお、これらのポイントは一般的な基準を示したものであり、種類や状況によって最終的な判断が下される点は念頭においてください。
物の性状
1つ目の判断のポイントは「物の性状」です。排出物がどのような状態にあるのか、どういった特性を持っているのかに基づき判断されます。利用用途に必要な品質を満たしつつ、生活環境や自然環境に悪影響を及ぼさないものは、有価物となる可能性があります。
しかし条件を満たさない場合は廃棄物として扱われることもあるため注意しなければなりません。またJIS規格などがある場合は、一般的に認められている基準に適合するか否かも、判断のポイントとなります。
先述したおから裁判の例では、おからが腐敗により悪臭を放ち周辺環境に悪影響を与えていたことも、廃棄物と認定された一因と考えられるでしょう。
排出の状況
2つ目の判断のポイントは「排出の状況」です。需要に即して計画的に排出され、なおかつ排出前後で適切な管理・保管がされているかで判断されます。ここで重要なのは「有価物なら正しく生産され管理・保管がなされている」ということです。
商品として販売する場合、買いたい・購入したいなどの需要に基づき計画的に生産されます。質が悪いと当然売れないと考えられるので、生産から出荷に至るまでの一連の流れは適切な状況下で管理されるのが一般的です。
おから裁判のケースでは、ずさんな管理状況下にあったことが判明しています。このような場合では「排出の状況」から考えると、有価物とは認められず廃棄物と認定されます。
通常の取扱い形態
3つ目の判断のポイントは「通常の取扱い形態」です。製品として市場が形成されており、廃棄物に分類され処理されるケースがない場合は、有価物と判断されます。
このポイントに基づき、廃棄物と認定された実例があります。
ある中間処理業者Bは、汚泥を処理した際に発生した再生土を「有価物」として販売していました。
しかし、実際に再生土を購入していたのはBのグループ会社のみであったため、市場の形成は認められないとして「廃棄物」との判断が下されました。
この件でBは、有償販売を装いながら、処分業の許可を持たないグループ会社に再生土の処分を委託していたとして行政処分を受けました。
参考:一般社団法人千葉県環境保全協議会「産業廃棄物処理業者に対する行政処分について(平成30年12月17日)」
取引価値の有無
4つ目の判断ポイントは「取引価値の有無」です。占有者と取引相手との間で金銭の対価を伴う譲渡がなされ、なおかつ客観的に見てその取引に経済合理性があるか否かで判断されます。売買契約としつつ、処理料金を支払っていないか、営利活動として妥当な金額かも評価をする上で重要なポイントです。
加えて、取引相手と継続的に対象物の有償譲渡が行われた実績があるかも確認されます。
占有者の意思
5つ目の判断ポイントは「占有者の意思」です。占有者がその物を適切に利用する意思があり他人に有償で譲渡する意思があるか、または放置・処分する意思がないかに基づき判断されます。
このポイントは主観的な要素も含まれており、占有者が「廃棄物ではなく、有価物である」と主張しながら、廃棄物を違法に処分するケースも考えられるでしょう。その場合はここまでに紹介した4つのポイントも含め客観的に判断され、占有者の意思によらず廃棄物だと判断されます。
実際、野積みタイヤを有価物と主張し適正に廃棄せず、周辺環境に悪影響を及ぼした事例が多発しました。これを受け2000年には各都道府県・各政令市の産業廃棄物行政主管部宛てに、占有者に意思を確認しつつもそれが客観的に認められない場合は、厳正に処分するよう通知が出されています。
参考:環境省 「野積みされた使用済みタイヤの適正処理について」(入手日付2023-12-11).
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