
事業活動に伴い排出される産業廃棄物は、専門の許可を持つ産業廃棄物処理業者が処理を行っています。国の衛生環境を維持したり、環境を保護することを考えると、その役割は非常に重要です。
しかし、産業廃棄物処理業界では慢性的な人材不足が深刻化しています。
そこで本記事では、産業廃棄物処理業界の現状や人手不足になっている原因と対策を解説します。
目次
産業廃棄物処理業界は人手不足
令和3年に環境省が産業廃棄物処理業者に対して行ったアンケートによると、人材の過不足感は「やや不足174社(50%)」「不足52社(15%)」と、過半数以上の事業者が人材不足を感じていました。
業務別では、事務員と営業に関しては過半数以上が人材数が「適当」であると回答しています。しかし、現場作業員に関しては「やや不足148社(45%)」が最も高く、「不足42社(13%)」と合わせ過半数以上が人材不足を感じているという結果になっています。
参考:環境省「令和2年度産業廃棄物処理業における多様な人材の確保に関する調査結果概要」
人手不足の原因
先ほどのアンケートによれば、現場作業員が不足している理由として「要件に合う人材の応募がない174社(54%)」が半数を占め、「雇用しても、定着率が低い65社(20%)」、「定年退職者の増加47社(15%)」が続いています。
一体どのような原因があるのでしょうか。
- 生産年齢人口が減少している
- 賃金が安い
- 業界に対しての良くないイメージがある
それぞれの理由を詳しく解説します。

生産年齢人口が減少している
1つ目の理由は、仕事の中核を担う生産年齢人口(15-64歳)が全体的に減少しているからということが挙げられます。産業廃棄物処理業界に限らず、日本の人手不足は深刻化しているのです。
この背景には出生率低下や生涯未婚率の上昇、女性の社会進出率の増加、晩婚化・晩産化の増加などさまざまな原因が考えられ、政府や自治体は長年対策を進めています。
しかし解決にはいまだ至っておらず、日本の総人口は2050年代に1億人を割り込むとされています。
賃金が安い
2つ目の理由は、産業廃棄物処理業界は他業界と比べて賃金が安い傾向にあるからです。
近年の労働者はより働きやすい環境を求める傾向が高いと言われています。求人内容に対してより高い賃金を求める求職者とのミスマッチが発生した結果、要件を満たす人材の応募が減っていることが考えられます。
※参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」
業界に対しての良くないイメージがある
3つ目の理由は、産業廃棄物処理業界に対しては3K(きつい・きたない・きけん)のなどの良くないイメージがあるからです。未来や社会的に意義のある仕事にも関わらず、このような根強いイメージのせいで産業廃棄物処理業に従事することを避けられてしまうケースがあります。

産業廃棄物処理業界の人手不足への対策
産業廃棄物処理業界の人手不足への対策には、以下が挙げられます。
- 働きやすい環境を整える
- 業界のイメージを改善する
- システムを導入して業務を効率化する
- 従業員の教育に力を入れる
それぞれの対策の概要とその効果を、詳しく見ていきましょう。
働きやすい環境を整える
人手不足の解消策として、賃金水準を上げたり労働時間を調整し、働きやすい環境を整備することが挙げられます。
先述したように、産業廃棄物処理業界は一般的な職種と比較して賃金が安い点が課題となっています。物価上昇や国際情勢の不安定化など、人々を不安に陥れる要因が多くある現代では、いくら「やりがいがある」「働きやすい職場」などの魅力があっても、賃金が少ない業界は選ばれにくいでしょう。
それでも賃金を上げるのが難しい場合は、福利厚生に力を入れるという方法もあります。
ハローワークによれば、「賞与あり」や「完全週休二日」などの福利厚生が付与されている求人は、1か月以内の被紹介確率を15%程度、3か月以内では20~30%引き上げると分析されています。
その他にも、業務上可能な部分はテレワーク可にしたり、女性や外国人労働者の受け入れ態勢を整えることで、求職者への間口を広げることができるでしょう。
参考:厚生労働省「令和6年版 労働経済の分析労働経済の分析─人手不足への対応─ 」
業界のイメージを改善する

とはいえ、産業廃棄物処理業界には肉体的に厳しかったり、不衛生であるのではないかというイメージが根付いており、それらが人材不足の一因ともなっていると考えられます。このイメージを払拭し、働きたいと思える業界イメージを作っていくことはとても重要です。
地域との交流やSNSなどでの情報発信、女性の活躍している様子を紹介するなど、業界のイメージアップのための活動はさまざまな企業によって行われています。
自治体においても、たとえば宮城県では業界団体のイメージアップ活動に対して助成金の支給を行っています。埼玉県では、以下のような3S(スマイル・セイケツ・スタイル)の3つのSでイメージアップを図っています。
スマイル | セイケツ | スタイル |
---|---|---|
・笑顔で挨拶運動を実施する ・笑顔で研修を実施する ・笑顔で声掛け運動する | ・業務開始前、終了後に工場・職場・車両を清掃する ・職場の整理整頓を徹底する ・地域の清掃活動に参加する | ・始業開始前に身だしなみを整える ・マナー研修を実施する |
個人が行えることでは、例えば身近な人のイメージを変えること、次世代を担う子供たちや取引先の排出事業者などに良いイメージを持ってもらうことです。近年のSDGsへの関心の高まりを追い風として意識改革の輪が広がっていくことで、求職者の増加に繋がると考えられます。
※埼玉県「産業廃棄物処理業から環境産業へのステージアップ」
※宮城県「産業廃棄物処理業イメージアップ推進事業」
システムを導入して業務を効率化する
さて、人材不足は「人材を補充する」だけが、唯一の解決手法ではありません。少ない人数でも業務をこなせるように対策することも、立派な人材不足対策の一つです。

たとえば、電子マニフェストや電子契約の導入があります。
電子マニフェストとは、マニフェストに関わる一連の流れを電子化したものです。
公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター(JWセンター)により管理・運営が行われています。電子マニフェストを導入すれば、必要事項を手書きで入力する必要はありません。
控えの郵送や修正など、紙マニフェストで運用していた際の運用・管理の手間を大きく削減でき、業務効率化につながる他、テレワークなどの臨機応変な働き方に対応することも可能になります。
また、現在話題となっているAI(人工知能)や、IoTを駆使することも省人化・業務効率化を図れる対策です。
IoT(Internet of Things)は「物のインターネット」と呼ばれる、パソコン以外のものにインターネットを繋ぐ技術です。身近ではテレビでインターネットコンテンツを閲覧したり、スピーカーにインターネットからダウンロードした音楽を流すなどが挙げられます。
これらの技術を利用すれば、「収集運搬車の自動配車システム」や「IoTセンサーを活用した収集ルートの最適化」「廃油量の遠隔監視による廃油回収の効率化」など、仕事の効率化が期待できます。
また、有価物の盗難や不法投棄対策などに遠隔監視型の防犯システムを導入すれば、悪質な犯罪に対する被害を減らすこともできるでしょう。
従業員の教育に力を入れる
従業員教育も、人手不足解消に有効な対策の一つです。知識・技能・スキルの向上は従業員にやりがいを与え、離職防止の効果が期待できます。前述した電子マニフェストを導入することなどは、業務上でパソコンスキルを身につけられるという求職者へのアピールにもなるでしょう。
公益社団法人全国産業資源循環連合会では、産業廃棄物処理検定や実務に役立つeラーニングを提供しています。これらのプログラムを活用すれば、従業員の専門知識と技術を効率的に伸ばしていくことができます。
参考:公益社団法人 全国産業資源循環連合会 セミナー/イベント (※外部サイトにリンクします)
産業廃棄物の排出事業者ができる取り組み
ここからは、ゴミを出す側のできる取り組みに触れていきましょう。廃棄物処理業界に従事していなくても、業界に貢献することはできるのです。
例えば排出事業者ができる取り組みには、以下が挙げられます。
- 廃棄物を必ず分別しておく
- 産業廃棄物の種類に合わせて処理業者を選ぶ
- 原料や生産方法を見直す
それぞれの取り組みの詳細を見ていきましょう。
廃棄物を必ず分別しておく
収集運搬から処分に至るまでの一連のプロセスをスムーズに進めるために、排出事業者は産業廃棄物を種類ごとに分別しておきましょう。処理場では機械や手作業やよる分別が行われていますが、排出された段階である程度の分別されていれば、処理場での作業効率を大幅に向上させることができます。
また、コスト削減の観点からも、分別は有効な手段です。事業活動に伴い、木くず・繊維くず・廃プラスチック類・汚泥・金属くずなどさまざまな廃棄物が排出されますが、これらが混合したものは処理費用が高くなります。
分別を行う際は、「廃棄物の種類ごとにごみ箱を設置する」「ごみの分別方法について従業員に周知する」などの対策が効果的です。
産業廃棄物の種類に合わせて処理業者を選ぶ
多くの産業廃棄物処理業者がいますが、すべての産業廃棄物に対応できるわけではなく、許可の有無によって取扱う産業廃棄物が異なります。
また、当該廃棄物を専門としていない事業者に処理を委託すると、イレギュラーな管理などにより、余分なコストがかかる可能性があります。最終処分まで適切な処理が実施されなければ、排出事業者も責任を追うことになります。
排出する側はつい安さを重要視しがちですが、コスト面だけで選ぶのではなく、該当する産業廃棄物の処理実績が豊富かを見極め、委託先を選定するのが重要です。
原料や生産方法を見直す
人的リソース、金銭的コストを削減するためには、原料や生産方法を見直すのも有効です。その際、Reduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)の3つの頭文字を取った3Rをベースに取り組むといいでしょう。
- Reduce(リデュース):廃棄物の排出量を減らす
- Reuse(リユース):廃棄物を繰り返し利用する
- Recycle(リサイクル):廃棄物を処理して再資源化する
具体的な取り組みには、「必要な分だけ生産する」「使い捨て用品から繰り返し利用できるものへ変更する」「リサイクル可能な素材を使う」「リサイクル業者に回収・再資源化を依頼する」などが挙げられます。
産業廃棄物処理業界は大きな成長市場

ここまで人手不足に関して解説してきましたが、近年の持続可能な社会実現への世界的な取り組みもあり、産業廃棄物処理業界は今後ますます需要の高まっていく分野です。
環境省の公表した資料「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によると、2000年の市場規模は4兆円未満でしたが、2020年には約5兆円にまで規模が拡大しています。
業界内では再資源化や脱炭素化社会の実現に向けた動きが加速しています。
例えば、廃油や廃水など液状系廃棄物をメインに取り扱い、有用金属やセメントの原料、再生重油などを抽出し、高いリサイクル率を誇る企業もあります。
また、二酸化炭素の排出量削減を目的としたリサイクル燃料の需要が高まりを見せる中、設備投資を強化している企業、鉄スクラップや非鉄金属の加工・販売事業を展開する企業などさまざまです。
ゴミの処理を行う産業廃棄物処理業界は新しい技術を生み出す業界でもあり、大きな可能性を秘めています。今後の技術の発展や、国民の意識の変化により、主要な産業になっていく未来はそう遠くないのではないでしょうか。
※参考:環境省「令和4年度環境産業の市場規模推計等委託業務 環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」 ,(入手日付 2024-03-16)
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