
PCB廃棄物とは、人体に有害な化学物質のPCB(ポリ塩化ビフェニル)が含まれていたり、付着していたりする廃棄物のことです。
古くから使われ続けてきた工場の変圧器やコンデンサが代表例で、これらは法律で定められた期限までに廃棄する必要があります。
PCBの濃度が0.5%を超える高濃度PCB廃棄物の場合、処分機関のJESCOが定める期限までに処分しなければなりません。
今回はPCB廃棄物の種類や処理期限、期限を超過したときの罰則を紹介します。PCB製品の処分方法が分からない事業者や収集運搬業者、処分業者の方は、ぜひご一読ください。
目次
PCBとは?
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は人工的に作り出された油状の化学物質です。電気を通さない絶縁性や不燃性を持つことから、変圧器やコンデンサ、蛍光灯などの電気機器に広く採用されてきました。
しかし1968年の「カネミ油症事件」で人体への有害性が確認され、1972年には製造や使用、輸入が禁止されました。
PCBは脂肪に溶けやすい性質を持つため、慢性的な摂取により、吹き出物や色素沈着、全身の倦怠感、食欲不振などさまざまな症状を引き起こすのです。
難分解性であるPCBは生物の体内に蓄積される危険な物質です。
地球規模で汚染の進行が確認されたため、2001年のストックホルム条約(PoPs条約)で規制対象物質に位置づけられ、2028年までの廃絶が目標とされました。
PCBの用途
PCBの主な用途は古い工場やビルにあるコンデンサや変圧器の絶縁油です。
その他の代表的な用途は加熱・冷却用の熱媒体や、感圧複写機の印刷インキ、真空ポンプや油圧オイルの潤滑油などです。業務用施設で使用されていた蛍光灯の中には安定器の機能を果たすため、PCBが含まれている場合もあります。
PCB廃棄物の種類
過去に起きた健康被害を受け、PCB廃棄物は法令に従い、処分が義務付けられました。成分の含有量に応じて、「高濃度PCB廃棄物」と「低濃度PCB廃棄物」に分けられます。
定義 | 主な廃棄物 | |
---|---|---|
高濃度PCB廃棄物 | PCB濃度が0.5%を超えるもの(5,000mg/kg(=ppm)) | 変圧器・コンデンサ 安定器 汚染物など |
低濃度PCB廃棄物 | PCB濃度が0.00005%(=0.5mg/kg)から0.5%に収まるもの | 汚泥、紙くず、木くず、金属くず、陶磁器くずなど |
※ただし可燃性のPCB廃棄物は10%を基準に高濃度と低濃度を分類
低濃度PCB廃棄物の中には製造時にPCBを使用していないにも関わらず、数mg/kg〜数10mg/kg程度の含有量が確認されるケースがあります。これは1990年まで行われていた再生絶縁油の流通や使用の過程で、意図せずに混入した可能性が高いです。
PCBを含む電子機器かどうかは銘板の情報から判断できますが、使用の過程で混入した可能性がある場合、中身を取り出して絶縁油中のPCB濃度を測定しなければなりません。
PCBが人体に与える影響
PCBが人体に蓄積されると吹き出物や色素沈着、目やに、肝機能障害、免疫機能の低下などの体調不良を引き起こします。
皮膚系の疾患以外にも神経系や免疫系にも影響を与え、病気にかかりやすくなる影響が指摘されています。
さらに、発がん性も疑われ、妊娠中の女性の場合は胎児の成長を阻害する恐れもあることから、摂取は厳禁です。
PCBは難分解性を有し、一度体内に入ると分解されずに残り続けます。そのため、PCBが体内に蓄積されたまま食物連鎖が起き、食物連鎖の上位にあたる人間はPCBの影響を大きく受けてしまいます。
大気や食料、水などPCBを摂取するルートは多岐に及ぶため、飲食物や生活環境には十分な注意が必要です。
廃棄処理が進められている背景
PCBの健康被害が明るみに出たきっかけは、西日本を中心に起きた集団食中毒「カネミ油症事件」です。米ぬか油の製造過程で熱媒体に使われていた電気機器からPCBやダイオキシンの一種(ポリ塩化ジベンゾフラン)が漏れ、製品に混入したことから引き起こされました。
皮膚疾患や倦怠感など被害者によって症状はさまざまで、事件から数十年が経過した現在でも改善せず、治療を続けている人もいます。
用途が幅広く実用性が高いPCBは製造現場で重宝される存在でしたが、「カネミ油症事件」を契機に毒性が明らかになったことで、使用や製造が中止されました。
その後PCBが含まれる電子機器の処分を目的に、処理施設の建設が計画されたものの、地元住民の反対でとん挫してしまいます。
長期にわたり処分されていないPCB廃棄物の規制を目的に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特措法)が2001年に施行されました。
PCB製品の保有事業者に対して、都道府県知事や政令指定都市の市長に対する保管状況の届出や、法令で定めた期間内の処分を義務付けています。
※参考:愛知県「カネミ油症について」(入手日付2024-02-06).
※参考:e-Goc法令検索「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(入手日付2024-02-06).

PCBを処理できる場所
1972年以前に製造された高濃度PCB廃棄物を処理できるのは、全国5箇所に処理場を構える中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)のみです。
低濃度PCB廃棄物は、環境大臣が認可する民間の無害化認定施設や、都道府県知事が許可する民間の施設で処分が可能です。
高濃度PCB廃棄物のコンデンサや変圧器などを保有する事業者は、処理の委託に当たり、JESCOへの事前登録が必要になります。
別途、PCB特別措置法による都道府県知事(政令で定める)に対する保管・処分状況の届出も必要になることを認識しておきましょう。
高濃度PCBと低濃度PCBを見分ける方法
JESCOによるPCBの無害化処理は期限付きの処理事業の一環として行われています。
高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物は処分期限が異なります。まずは自社に残存する廃棄物がどちらに当たるか把握することが重要です。高濃度PCBと低濃度PCBを見極めるための方法を紹介します。
製造年月日
PCB製品の製造が禁止になったのは1972年です。従って製造年月日が1972年以降であれば、高濃度PCB廃棄物ではないとの判断が可能です。
PCBを絶縁油に使用する電子機器のうち、変圧器と高圧進相コンデンサ(高圧受電設備で使用される高効率のコンデンサ)は1953年以降から国内で製造が開始されました。以上から、1953年前の製造年月日が付された製品には、PCBが含まれていないと判断できます。
機器種別
次にチェックするのは機器種別です。高濃度PCBの製造時期と被っていても、機器の種類によってはPCBが使われていない可能性があるためです。
メーカー
電子機器のメーカーを確認した上で、製造会社が公開する機種別の確認基準をチェックしてみましょう。製造年月日と機器種別で分かるのは高濃度PCBの可能性があることだけで、実際に対象なのかは判断できません。
メーカーごとに製品の規格に応じて「non PCB」「PCB 使用」を判定できる表があります。電子機器に貼られている銘板を確認すれば、製造年月日から型番、仕様、メーカーまで必要な情報が分かります。確認表では判断ができない場合は各メーカーに直接問い合わせてみましょう。
確認の結果、PCBが含まれていないと分かっても油断は禁物です。耐用年数を過ぎていれば、故障や火災の原因になります。速やかに使用を中止して、別の製品に切り替えましょう。
※参考:長崎市「PCB使用安定器の判別方法」 (入手日付2024-02-06).
PCBの処理期限
PCB廃棄物の排出事業者は、JESCOの事業エリアごとに定められた処分期間内に処理の委託を行うことが義務付けられます。高濃度PCBと低濃度PCBの処理期限を紹介します。
高濃度PCBの処理期限
次の表で高濃度PCB廃棄物のエリア別の処分期間をチェックしましょう。
変圧器・コンデンサ | 安定器及び汚染物等 | |
---|---|---|
北海道(室蘭)事業エリア | 2022年3月31日 | 2023年3月31日 |
東京事業エリア | 2022年3月31日 | 2023年3月31日 |
豊田事業エリア | 2022年3月31日 | 2021年3月31日 |
大阪事業エリア | 2021年3月31日 | 2021年3月31日 |
北九州事業エリア | 2018年3月31日 | 2021年3月31日 |
高濃度PCBは2016年7月までに全ての処理を完了する予定だったものの、間に合わず2022年3月末に延長されました。その後、北九州事業エリア内で未処理の大型変圧器・コンデンサが見つかったため、北九州市の受け入れ期限のみ2024年3月31日に再延長されています。
上記の表から分かるとおり、一部の地域を除き、JESCOの処分期間は超過しています。なお排出事業者が最終的にPCB廃棄物の処理を委託できる処分期限日を過ぎた後でも、JESCOの事業が直ちに終了するわけではありません。
高圧コンデンサや変圧器などの大型機器の場合は期限の到来から3年間、安定器や汚染物の場合、同2年間の事業終了準備期間が存在します。
※参考:北九州市「北九州 PCB 処理施設の操業再開について」(入手日付2024-04-10).
低濃度PCBの処理期限
低濃度PCB廃棄物の処分期間は、PCB特措法において、全国統一で2027年(令和9年)3月31日と定められました。
低濃度PCB廃棄物の処理は、民間の処理業者により行われています。
低濃度PCB廃棄物の処理業者は、環境大臣が個別に認定する「無害化処理認定事業者」と都道府県市の長からPCB廃棄物に係る「特別管理産業廃棄物の処分業許可」を得た事業者があります。
「無害化処理事業者」の連絡先は環境省のページで紹介されているので、処理を委託したい方はご確認ください。
※参考:環境省「廃棄物処理法に基づく無害化処理認定施設」(入手日付2024-03-19)
※参考:環境省「ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品及びPCB廃棄物の期限内処理に向けて」(入手日付2024-03-19)
処理期限に間に合わなかった場合の罰則
事業終了準備期間の間であれば、処理期限を超過して持ち込んでも大丈夫だろうと考えるのは望ましくありません。
PCB特措法では使用中の電子機器を含め、遅くとも処分期限までに処理の完了を求める改善命令の権限を、環境大臣と都道府県知事に認めています。
環境大臣や都道府県知事の改善命令に従わず、かつ処理期限までにPCB廃棄物の処理を委託しなかった事業者は、3年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科が科されます。
期限を過ぎた後に持ち込んだ場合、刑事罰を受ける可能性もあるため、処分期間のうちに委託を済ませましょう。
PCB使用製品を処理する際の注意
PCB使用製品の収集・運搬は許可を有する業者に委託しなければいけません。無許可、または許可証の期限が切れた事業者に依頼した場合、当該処分業者だけでなく、委託元の排出事業者まで法的な責任に問われる可能性があります。
業者を選ぶ際は、必ず委託先の収集運搬業者・処分業者が許可を持っているか確認してください。
電子マニフェストの導入ならDXE Station
収集運搬業者・処分業者の方で「排出事業者がマニフェスト登録をなかなかしてくれない……」や「マニフェスト起票時のミスが多い……」といった悩みを持つご担当者の方はいませんか?
DXE Stationでは、登録に不慣れな排出事業者に代わって、収集運搬業者がマニフェストの起票を行える代行起票をはじめ、便利な機能を多数そろえています。
また、かんたん受注登録機能で、廃棄物に関するすべての受注をクラウドで一元管理することが可能です。
「排出事業者に登録を催促するのはもうイヤ……」、「紙マニフェストから解放されたい!」という方の「産廃業務のDX化」をDXE株式会社が支援します。
収集運搬業者・処分業者向け事務業務軽減サービス「DXE Station」の詳しい機能・料金プランを見てみる

収運業者のお客様向け

収運・処分業者のお客様向け

収運業者と処分業者をワークフローでつなぐ
クラウドで収集運搬から
処分完了までの業務を一元化!
搬入予定の確認や、
二次マニフェストの
紐づけが簡単に!