
有機溶剤は人体や環境に悪影響を与える恐れがあるため、適切に処理しなければなりません。
そこで本記事では、有機溶剤の概要や種類、中毒防止予防規則・特定化学物質障害予防規則での分類などを網羅的に解説します。記事後半では、有機溶剤を廃棄する場合の廃棄物区分や廃棄する方法などもご紹介するので、併せて参考にしてください。
目次
有機溶剤とは?
有機溶剤とは有機化合物の一種で、油性物質を溶解する能力を有している液体です。主に炭素・酸素・水素を含む化合物で構成され、水とは異なる性質の溶媒です。
有機溶剤は他の物質を溶かす溶剤として、塗装や印刷、洗浄などさまざまな用途に用いられています。均一に塗布できる点やコストに優れている点、性能に優れている点などから機械部品の脱脂洗浄などにも用いられており、汎用性が高い点が特徴です。
しかし多くの有機溶剤は揮発性(液体が蒸気になりやすい性質)が高く、蒸気を吸い込むと人体に悪影響を与える可能性があるため、使用時には十分に換気する、マスクを付けるなどの対応が必要です。実際、慢性的に有機溶剤を用いると再生不良性貧血や視力低下、精神症状、神経障害などを呈するとされています。
有機溶剤の種類
有機溶剤の種類は、大きく以下の5つに分類できます。
- 炭化水素類
- アルコール類
- ケトン類
- エステル類
- エーテル類
それぞれの化合物の特徴や用途などをご紹介します。

炭化水素類
炭化水素類は、炭素原子(C)と水素原子(H)のみから構成される物質、もしくはこれらが含まれる物質の総称です。石油や天然ガスの主成分として含まれており、プラスチックの原料にもなるため、工業上重要な物質です。
炭化水素はハイドロカーボンとも呼ばれており、鎖式炭化水素と環式炭化水素に大別され、さらに脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などに細分化されます。メタン・エタンのように常温で気体のものから、ベンゼン・トルエンのように液体のもの、ナフタレンのように固体のものまで、分子量と構造によりさまざまな状態となる点が特徴です。
水に溶けにくい性質を持ち、金属を腐食しないことから工業プロセスで洗浄剤に用いられます。
アルコール類
アルコール類は、構造式にヒドロキシ基を持つ物質の総称であり、メタノールやエタノールなどアルコール類の代表例として挙げられます。
アルコール類は、分子中に含まれる炭素数の多寡で性質が異なります。分子中の炭素数の少ない低級アルコールは無色の液体で、水溶性が高い点が特徴です。産業用溶剤や燃料、消毒剤や飲料の製造に用いられています。
高級アルコールは融点が低く、炭素数12以上のものは常温では固体です。炭素数が増えると炭化水素と性質が近くなり、水溶性の性質は弱まります。主な用途は、乳化物の安定剤や潤滑油、金属加工油の添加剤などです。
アルコール類は引火性が高く、第四類危険物に該当します。80L以上のアルコール類を保管する場合は、消防法に基づき許可申請が必要です。
参考:東京消防庁「消毒用アルコールは正しく取扱いましょう!」(入手日付2024-02-14).
ケトン類
ケトン類は、構造式にケトン基を持つ物質の総称です。
ケトン類の中で最も単純な構造であるアセトンは、水と油の両方と相性が良く、接着剤や塗料の溶剤、瞬間接着剤のはがし液などに用いられています。
メチルエチルケトンは樹脂を溶解する力が高く、塗料や接着剤の原料などで幅広く利用されています。
エステル類
エステル類とは、有機酸類とアルコールが脱水縮合すると得られる物質の総称です。
代表的なエステル類であるフタル酸エステルは、プラスチック製品を柔らかくする可塑剤として用いられています。その他、建材やフィルム、接着剤、塗料などの原料にもなります。
エーテル類
エーテル類は、アルコール同士を脱水縮合させて得られる物質の総称です。
代表的なエーテル類であるジエチルエーテルは、有機合成原料、樹脂・ゴム・油脂の原料、燃料などに用いられます。その他には麻酔薬など、工業分野以外にも幅広く用いられている点が特徴です。
有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則での分類
有機溶剤中毒予防規則とは、有機溶剤による労働者への健康被害を防ぐために、労働安全衛生法と労働安全衛生法施行令の規定にも基づき制定された規制です。
有機溶剤中毒予防規則では、有機溶剤を使用する作業場の環境基準、換気設置の性能、健康診断の実施、必要な保護具の使用、労働者の健康を保護するために企業が取り組むべきことなどを定めています。
同規則の対象となる有機溶剤は、第一種・第二種・第三種を含めて全54種類です。どの有機溶剤が該当するかは、次章以降で解説します。
特定化学物質障害予防規則とは、特定の化学物質の取り扱いに起因する健康被害の影響を防止するために設けられた規則です。有機溶剤中毒予防規則と同様に、労働安全衛生法と労働安全衛生法施行令の規定にも基づき制定され、作業場の環境基準、換気設置の性能、健康診断の実施などを定めています。
有機溶剤と特定化学物質の違いは、労働者に与える影響の大きさです。後者は特に健康障害を発生させるリスクが高いとされており、より厳しく規制されています。
第一種有機溶剤(有機溶剤中毒予防規則)
有機溶剤中毒予防規則における第一種溶剤には、以下が挙げられます。
- クロロホルム
- 四塩化炭素
- 1,2-ジクロルエタン(別名二塩化エチレン)
- 1,2-ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)
- 1,1,2,2-テトラクロルエタン(別名四塩化アセチレン)
- トリクロルエチレン
- 二硫化炭素
有機溶剤が揮発しないよう、発散源の密閉・局所排気装置・プッシュプル型換気装置などの対策が求められます。
第二種有機溶剤(有機溶剤中毒予防規則)
有機溶剤中毒予防規則における第二種有機溶剤には、以下が挙げられます。
- アセトン
- イソペンチルアルコール(別名イソアミルアルコール)などのアルコール類
- エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ)などのエーテル類
- オルト-ジクロルベンゼンやクロルベンゼンなどの芳香族化合物
- 酢酸メチルや酢酸ノルマル-ペンチル(別名酢酸ノルマル-アミル)などの酢酸エステル類
- シクロヘキサノールやシクロヘキサノンなどのシクロヘキサン誘導体
- メチルシクロヘキサノール ・メチルシクロヘキサノン・メチル-ノルマル-ブチルケトンなどのアルコールおよびケトン類
第一種有機溶剤と同じく、発散源の密閉・局所排気装置・プッシュプル型換気装置などの対策が必要です。
第三種有機溶剤(有機溶剤中毒予防規則)
第三種有機溶剤は、以下のとおりです。
- ガソリン
- コールタールナフサ
- 石油エーテル
- 石油ナフサ
- 石油ベンジン
- テレピン油
- ミネラルスピリット
第三種有機溶剤のうち、吹付けの作業に用いるものは発散源の密閉・局所排気装置・プッシュプル型換気装置などの対策が必要ですが、それ以外の場合は防毒マスクを付けた上で全体換気装置下で作業できます。
特別有機溶剤(特定化学物質障害予防規則)
特別有機溶剤は性質に基づき、主に以下の3つに分類されます。
分類 | 特性 | 具体例 |
---|---|---|
第一類物質 | がんや慢性・遅延性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高いもの | ・ポリ塩化ビフェニル(PCB) ・ジアニシジンおよびその塩 ・ベリリウムおよびその化合物 |
第二類物質 | がんや慢性・遅延性障害を引き起こす物質のうち、第一類物質に該当しないもの | ・アルキル水銀化合物 ・インジウム化合物 ・オーラミン |
第三類物質 | 大量漏洩により急性中毒を起こす物質 | ・アンモニア ・一酸化炭素 ・塩化水素 |
有機溶剤を廃棄する場合の廃棄物区分
廃棄物はまず、産業廃棄物と一般廃棄物に分類されます。産業廃棄物は事業活動に伴い発生する廃棄物で、法律や政令で定められた20種類を指します。それ以外の日常生活から排出され、環境汚染の心配が少なく市町村の処理能力で十分対応できるものが、一般廃棄物です。
有機溶剤は前者の、産業廃棄物に分類されます。有機溶剤を廃棄する場合の廃棄区分は、「産業廃棄物(廃油)」と「特別管理産業廃棄物(引火性廃油)」のいずれかです。具体的にどのような性質を持つ有機溶剤が、いずれに分類されるかなどを詳しく見ていきましょう。
なおその他の産業廃棄物や、一般廃棄物との違い、処理方法の詳細が知りたい方はこちらの記事も併せて参考にしてください。
産業廃棄物(廃油)
有機溶剤は通常、産業廃棄物の廃油に分類されます。主な処理方法は、再生利用・減量化・最終処分の3つです。
廃油は再生利用が難しく、「産業廃棄物の排出・処理状況等(令和2年度実績) 」によると再生利用率は44.2%程度にとどまります。これは汚泥(7.1%)・廃アルカリ(17.9%)・廃酸(29.1%)に次ぐ低さです。
参考:環境省「産業廃棄物の排出・処理状況等(令和2年度実績)」(入手日付2024-02-14)
特別管理産業廃棄物(引火性廃油)
引火性廃油となる有機溶剤は、特別管理産業廃棄物に分類されます。特別管理産業廃棄物とは、爆発性・毒性・感染性が高く、特に健康や環境に与える被害が大きいとされる産業廃棄物です。通常の廃棄物よりも厳しい処理基準が設けられています。
ここでいう引火性廃油とは、揮発油類・灯油類・軽油類のうち、引火点が70度未満で発火しやすい物質のことです。取り扱いが難しく危険なので、運搬や収集、処分では発火点を超えないよう十分注意する必要があります。
なお廃棄物処理法により、特別管理産業廃棄物が排出される事業場には、特別管理産業廃棄物管理責任者を設置しなければならないと定められています。これに違反した場合、30万円以下の罰金が科されます。
特別管理産業廃棄物管理責任者の資格要件や取得の流れは、こちらの記事で詳しく解説しているので、併せて参考にしてください。
有機溶剤を廃棄する方法
有機溶剤を廃棄する際は、以下のステップに従って進めてください。
- 分別・保管
- 専門の廃棄物処理業者へ委託する
- マニフェストの交付・保管
分別・保管
有機溶剤は互いに混じり合わないよう、しっかり分別して保管しましょう。異なる種類の有機溶剤が混ざり合うと、化学反応を起こす可能性があります。
また揮発性が高い有機溶剤の蒸気を吸い込んでしまう事故を防ぐために、密閉した容器で保管しましょう。
専門の廃棄物処理業者へ委託する
専門の廃棄物処理業者へ委託する際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 都道府県知事の許可を受けている業者へ依頼する
- 有機溶剤を処理できるかどうかチェック
- 溶液の保管容器はしっかりと密閉し、何が含まれているのかを明記する
まずは、委託する業者が都道府県知事の許可を受けているかを必ず確認しましょう。廃棄物処理法では、産業廃棄物の収集・運搬や処分を行うには区域を管轄する都道府県知事の許可が必要と定めています。
無許可の業者に委託した場合、委託した企業も懲役5年もしくは罰金1,000万円、またはその両方が科されます。これは廃棄物の排出者が、最後まで責任を持って処分すべきという「排出事業者責任」の考え方に基づいています。
続いて、委託先が有機溶剤を処理できるかどうかをチェックしましょう。業者によっては、処理費用を抑えるために金属くずや古紙、医療系廃棄物などに特化している場合があります。委託先が不適切な処理をすると、排出事業者にも責任が及ぶ可能性があるため注意してください。
委託先を決めた後は、該当する産業廃棄物を引き渡すまで、溶液の保管容器はしっかりと密閉した上で何が含まれているのかを明記しましょう。しかし複数の有機溶剤や他の産業廃棄物が混じってしまうことも、往々にしてあります。その場合は処理方法が変わる可能性もあるため、引き渡し時に必ず何が含まれているのかを伝えてください。
参考:e-GOV法令検索「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(入手日付2024-02-14)
マニフェストの交付・保管
産業廃棄物を引き取ってもらったらそこで終わりではなく、マニフェストを交付します。マニフェストは産業廃棄物管理票とも呼ばれ、産業廃棄物が最後まで適切に処理されたかを確認するための伝票です。排出事業者側は、収集運搬や処分を委託した企業名、量と種類などを記載します。また交付したマニフェストは、5年間の保管義務があります。
マニフェストに関わる報告義務に違反すると、1年以下の懲役または1,000万円以下の罰金に処されるので注意してください。
マニフェストの交付から報告までの流れ、書き方、電子マニフェストと紙マニフェストの違いなどの詳細はこちらの記事にまとめているので、併せて参考にしてください。
参考:公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター「措置命令と罰則」(入手日付2024-02-14)
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