
近年は、環境負荷を低減し限りある資源を有効活用しようとする動きが、日本だけでなく世界全体で推進されています。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)やサステナビリティなどのキーワードを聞いたことのある方も多いでしょう。
こうした取り組みを推進するためには、リサイクルが欠かせません。そのリサイクル方法には、ケミカルリサイクル・マテリアルリサイクル・サーマルリサイクルなどがあります。
そこで本記事では、ケミカルリサイクルを中心に、他のリサイクル方法であるマテリアルリサイクルとサーマルリサイクルの違い、具体例をご紹介します。記事後半では、ケミカルリサイクルのメリット・デメリットもご紹介するので、リサイクルを推進しようとお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
ケミカルリサイクルとは?
ケミカルリサイクル(Chemical Recycle:化学的再生法)とは、廃棄物に化学的処理を施し、元の製品や他の製品の原材料などに再利用するリサイクル手法です。詳しくは後述しますが、廃プラスチック類を化学的に分解して原料やモノマーにしたり、家畜のふん尿を化学反応させエネルギーを取り出したりする事例があります。
マテリアルリサイクルとの違い
マテリアルリサイクル(Material Recycle:材料リサイクル)は、廃棄物に粉砕などの加工処理をした上で再度資源に活用する手法です。
ケミカルリサイクルは物質の化学構造を変化させるため、リサイクル前と異なる用途に利用されることもあります。それに対してマテリアルリサイクルは、基本的に同一種類の製品に利用されます。
マテリアルリサイクルには大きく、レベルマテリアルリサイクル(水平リサイクル)とダウンマテリアルリサイクル(カスケードリサイクル)の2種類があります。
レベルマテリアルリサイクル(水平リサイクル)とは、廃棄された素材を再び同じ製品の原料にするリサイクル手法です。ペットボトルを処理して、新たなペットボトルを再生する、古紙を紙製品の原料にするなどが挙げられます。
ダウンマテリアルリサイクル(カスケードリサイクル)とは、元の品質を維持することが困難な廃棄物を、品質レベルを下げてリサイクルする方法です。具体的には、ペットボトルを洗浄・加工し、衣類の原料にする例が挙げられます。
サーマルリサイクルとの違い
サーマルリサイクルとは(Thermal Recycle:熱回収)とは、廃棄物を焼却処分する際に発生する熱エネルギーを回収して利用するリサイクル手法です。
サーマルリサイクルは主に、廃プラスチック類のリサイクルで採用されています。一般社団法人プラスチック循環利用協会の公表した資料「プラスチックリサイクルの基礎知識 2023」によると、2021年は廃プラスチック類の総量の62%にあたる511万トンがこの方法で処理されました。
サーマルリサイクルでは、ごみ焼却熱利用、セメント原・燃料化、固形燃料化(RPF、RDF)などにより熱エネルギーを回収します。熱を利用してビニールハウスでフルーツを栽培したり、工場の暖房・給湯に利用したりしている事例があります。
※参考:一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識 2023」(入手日付 2024-04-20)

ケミカルリサイクルの具体例
ケミカルリサイクルの具体例には、以下が挙げられます。
- 原料・モノマー
- ガス
- 飼料
- 油
- バイオガス
それぞれどのような用途やステップでリサイクルされているかを詳しく解説します。
原料・モノマー
原料・モノマー化は解重合法とも呼ばれており、使用済み製品を化学的に分解し、モノマー(基本的な化合物)にまで戻します。
モノマーまで分解された後は、再び製品の原材料に用いることが可能です。原料・モノマー化は主に、ペットボトルを始めとするポリエチレンテレフタレート(PET)製品をケミカルリサイクルする際に用いられており、飲料用ペットボトルや繊維、シートなどに再生されています。
ガス
ケミカルリサイクルのガス化とは、廃棄物に化学的処理を加えて水素や炭化水素、メタノール、一酸化炭素などのガスを取り出すことです。廃棄物をまず破砕機で粉々にして、低温・高温ガス化炉で処理します。最後にガス洗浄装置にかけると、合成ガスを得ることが可能です。
この手法で取り出されたガスは、肥料の原料となるアンモニア、工業や医薬品などさまざまな分野で用いられるメタノールを合成する際の原料に用いられます。
飼料
ケミカルリサイクルはプラスチックの再生だけでなく、生ごみを利用する手法もあります。その一つが、飼料化です。
このプロセスでは、生ごみを家畜用飼料へと加工します。例えばミスタードーナツでは、売れ残ったドーナツを飼料化処理工場へと運んで処理し、飼料としてリサイクルしています。
※参考:ミスタードーナツ「環境への取り組み 食品ロス削減」(入手日付2024-04-20)
油
ケミカルリサイクルの一種である油化とは、使用済みプラスチック製品(ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレンなど)を化学的に分解し、炭化水素油を始めとする石油由来の製品に再生する手法です。この手法は、既存の製油所・石油化学プラントなどの設備を活用することで、プラスチックのリサイクル効率が高まり、初期設備のコストを削減できる点がメリットです。
回収した油は、再びプラスチック製品の原料に用いられます。
バイオガス
ここまでは人工的に化学的処理を加える手法を見てきましたが、微生物による発酵作用を利用したケミカルリサイクル手法もあります。その代表例が、主に畜産農業で排出されたふん尿や食品廃棄物などを微生物に発酵させ、バイオガスを発生させる手法です。
このプロセスにより、メタンガスなどの可燃性のガスが発生します。これらの可燃性ガスは、発電やガスエンジン、燃料電池などへ活用が可能です。
ケミカルリサイクルのメリット
ケミカルリサイクルには、以下に挙げるメリットがあります。
- 混合物・汚染があってもリサイクルできる
- 二酸化炭素の排出量削減につながる
- 天然資源の節約になる
ケミカルリサイクルへの理解を深めるためにも、それぞれ詳しく見ていきましょう。
混合物・汚染があってもリサイクルできる
ケミカルリサイクルのメリットには、混合物が含まれていたり汚染されていたりしてもリサイクルできる点が挙げられます。
ケミカルリサイクルでは、廃棄物を高温環境下での熱分解や化学的分解により処理するため、異なる種類のプラスチックが混合している場合でも、これらを効率的にリサイクル可能です。汚れが付着している廃棄物も、同様の手順で処理できます。
二酸化炭素の排出量削減につながる
ケミカルリサイクルは、石炭や石油などの化学燃料の使用を抑えられるため、それに伴う二酸化炭素の排出量を削減できます。
世界中に拠点を持つ総合化学メーカーBASFのライフサイクルアセスメント(※)による環境評価では、焼却処理するケースと比較して、二酸化炭素の排出量が50%削減されるとされています。
この点を考慮すると、ケミカルリサイクルはSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に寄与しているといえるでしょう。二酸化炭素の排出を抑えることが、地球温暖化や大気汚染の防止につながります。
※参考:BASF「ライフサイクルアセスメント ( LCA )による環境評価」(入手日付2024-04-20)
※ライフサイクルアセスメント:LCA(Life Cycle Assessment)。製品の製造から消費、廃棄、そしてリサイクルの一連のプロセスの環境負荷を明らかにする手法。
天然資源の節約になる
ケミカルリサイクルを推進すれば、天然資源の節約にもつながります。廃棄されたプラスチックを再びプラスチック製品にしたり、生ごみを飼料化したりすることで、新たな原料や材料の使用を抑えられるためです。
石油や石炭などの化学燃料や、化学原料の消費を削減し、限りある貴重な天然資源の有効活用に貢献しています。
ケミカルリサイクルのデメリット
ケミカルリサイクルは先述したメリットだけでなく、デメリットもあるため、これらも正確に把握しておく必要があります。ケミカルリサイクルのデメリットには、主に以下が挙げられます。
- 設備投資・運搬にコストがかかる
- 高い処理技術・エネルギーを要する
- 廃プラスチックの継続的な確保が必要になる
ケミカルリサイクルへの理解を深めるために、これらのデメリットを詳しく見ていきましょう。
設備投資・運搬にコストがかかる
ケミカルリサイクルは、設備投資や運搬のコストの面で他のリサイクル手法に劣る点がデメリットです。
先述したサーマルリサイクルは、既存の焼却施設を利用し、熱エネルギーを抽出できます。
その点ケミカルリサイクルは、さまざまな手法があるものの、そのいくつかは高度な処理が必要で、環境や設備を整備するには多大なコストがかかります。
加えて、リサイクル施設に運ぶまでのコストがかかる点もデメリットです。ケミカルリサイクルは大掛かりで特別な施設で実施されており、こうした施設は都市部から離れた場所にあるため、運送コストがかさみます。
高い処理技術・エネルギーを要する
ケミカルリサイクルを進めるプロセスでは、エネルギー消費が大きくなる点もデメリットに挙げられるでしょう。例えば、プラスチック製品製造の逆のプロセスをたどる原料・モノマー化では、加熱するために新たなエネルギーを消費します。
また、プラスチックに添加される難燃剤やUVカット剤などは、プラスチック製品の耐久性や物性を向上させる重要な役割を担っていますが、処理時には環境面とコスト面で課題をもたらします。こうした材質のプラスチックを焼却する際、ダイオキシン類などの有毒ガスが発生するため、高い処理技術が必要です。
コストや技術面での課題が残っており、まだまだケミカルリサイクルの普及率は高いとはいえないのが現状です。一般社団法人プラスチック循環利用協会の「プラスチックリサイクルの基礎知識 2023」によると、サーマルリサイクルが62%、マテリアルリサイクルが21%なのに対し、ケミカルリサイクルは4%程度に留まっています。
※参考:一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識 2023」(入手日付 2024-04-20)
廃プラスチックの継続的な確保が必要になる
ケミカルリサイクルに限らずその他のリサイクル手法でも共通していますが、廃プラスチックの継続的な確保が必要になる点も課題に挙げられます。供給が不安定になると、それに伴いリサイクル活動にも支障が及ぶでしょう。
しかしただ単に廃プラスチック類が収集できればいいわけではなく、再生する製品の品質を保つには、ある程度良質なものが必要です。
自治体や企業と連携し、継続的にリサイクル可能な廃プラスチック類を回収できる環境の整備が重要となるでしょう。
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