
事業活動に伴い生じるごみが有価物に分類されるのか、それとも産業廃棄物に分類されるのかについて、悩んだことのある担当者の方も多いでしょう。有価物であれば、排出物の収集・運搬や処分にかかるコストを抑えられるだけでなく、売買により利益を上げることも可能です。
しかし、安易に排出物を有価物と判断してはいけません。廃棄物と判断されるものを法律に基づき処理せず、有罪判決となった事例もあります。こうしたリスクを避けるためにも、有価物の詳しい内容や、産業廃棄物との区別の仕方を明確にしておくことが重要です。
そこで本記事では、有価物の概要や産業廃棄物との違いを解説します。記事後半では、5つの判断基準ポイントや、有価物か産業廃棄物かを巡る判例、管理の課題などもご紹介するのでぜひ参考にしてください。
目次
有価物とは?
有価物の定義を明確に定めた法令はありませんが、有価物は一般的に「占有者が不要になった場合でも、何らかの価値を有している物」だとされています。不要物であっても有価物と判断されるなら、産業廃棄物のように厳格な基準に則って処理する必要はなく、他人に有償で譲渡することも可能です。
例えば、金属くず、古紙類、プラスチックなどは排出者にとっては不要物かもしれません。しかし修繕や分解をして他の製品の素材や材料となり得るなら、有価物だといえます。
有価物と産業廃棄物との違い
有価物と産業廃棄物は、処理方法が異なります。
産業廃棄物は健康や自然環境への悪影響を避ける目的から、廃棄物処理法で処分の一連の流れが厳格に定められています。有価物と同じように無償で引き取ってもらったり、私有地内であっても放置したりすることはできません。
また産業廃棄物の収集・運搬や処分を行う際には、事業活動を行う区域を管轄する政令市や地方自治体からそれぞれ必要な許可を取得する必要があります。具体的には産業廃棄物を収集・運搬する場合は「産業廃棄物収集運搬業許可」を、処分する場合は「産業廃棄物処分業許可」を取得することが求められます。
一方有価物は、上記の許可は必要ありませんが、金属くず商許可や古物商許可などの取得が必要です。

5つの判断基準ポイント
有価物か産業廃棄物かを判断する基準となるポイントは、以下の5つです。
- 物の性状:十分な品質が保たれているか
- 排出の状況:需要に沿って計画的に排出されているか
- 通常の取り扱い形態:製品としての市場が形成されているか
- 取引価値の有無:占有者から取引相手に有償譲渡されているか
- 占有者の意思:占有者に有償譲渡する意思があるか
それぞれ詳しくご紹介します。
物の性状
1つ目の判断ポイントは「物の性状」です。排出物の具体的な状態や、特性に基づき判断されます。有効活用できるほどの十分な品質を満たしつつ、生活環境や自然環境へ悪影響を及ぼさないものは、有価物となる可能性があります。
上記の条件を満たさない場合は、廃棄物に分類されるケースがあるので注意しなければなりません。またJIS規格や客観的に認められている基準に適合するか否かも、判断の重要なポイントとなります。
例えば古いコンピュータやスマートフォンなどの電子機器を処分するとしたら、修理やアップグレードが可能で、再販・再利用できる状態であれば有価物、修理不可能なら廃棄物と分類されます。
排出の状況
2つ目の判断ポイントは「排出の状況」です。「正しく生産され管理・保管がなされている」ことがポイントとなります。具体的には、適切な需要に即して計画的に排出され、なおかつ排出前後で適切な取り扱い・保管・管理がなされているかで判断します。
消費者の需要に基づいて商品を計画的に生産する際、質が悪いと当然売れ残る可能性は高くなるでしょう。そのため、生産から出荷に至るまでの一連の工程は適正な条件下で監督されます。管理体制が整っていない環境で生産・管理された商品は、基本的には有価物と認められません。
通常の取り扱い形態
3つ目の判断ポイントは「通常の取り扱い形態」です。製品としての市場が形成されており、廃棄物と分類され処理されるケースがない場合は、有価物と判断されます。
例えば金属部品や機械スクラップなどから出る金属くずには、リサイクル市場が存在し、再利用価値があるものも含まれています。こうした金属くずは有価物となる一方で、市場が形成されておらず、廃棄以外の処分方法がない場合は、廃棄物となります。
取引価値の有無
4つ目の判断ポイントは「取引価値の有無」です。所有者と引き取り手の間で行われる有償の譲渡や取引が、経済的な合理性を有しているかどうかによって判断されます。売買契約と称していながら、処理料金を支払っていない、著しく安価な価格で受発注が執り行われている、継続的な対象物の有賞譲渡が行われた実績がないといった場合は、認められない可能性があります。
例えば建設汚泥処理物は、建設資材としての適合性の確認、施工指針や仕様書に基づく評価、品質と数量の確認、構造的安定性の確認などにより、産業廃棄物か有価物かを判断します。
占有者の意思
5つ目の判断ポイントは「占有者の意思」です。占有者が対象物を適切に利用する意思があり、かつ他人に有償で譲渡する意向があるか、または放置・処分する意思がないかに基づき判断されます。
ただし、占有者が「廃棄物ではなく、有価物である」と主張することで廃棄物の処理から免れようとする可能性も否定できません。この判断ポイントで重要なのは、占有者の主張が社会通念上、合理的かつ客観的に認められる場合に限るという点にあります。
実際、野積みタイヤを有価物と主張し適正に廃棄せず、周辺環境に悪影響を及ぼした事例が多発した事例があります。これを受け、都道府県と政令指定都市の産業廃棄物行政主管部に対して、占有者の意思が客観的に証明できない場合は、厳格に廃棄物を処理するよう通知が出されました。占有者の意思が決定的な判断要素となるのではなく、あくまでもここまでに紹介した5つのポイントを総合的に鑑みて判断される(総合判断説)点は念頭においてください。
有価物か産業廃棄物かを巡る判例
以下4つの有価物か産業廃棄物かを巡る判例や事例をご紹介します。
- おから事件
- 水戸木くず事件
- 徳島木くずボイラー事件
- 関東ミキシングコンクリート事件
それぞれの事件の概要を詳しく見ていきましょう。
おから事件
おから事件とは、総合判断説の考え方が示された代表的な判例です。この裁判では、豆腐や豆乳の製造過程で副産物として発生するおからが、廃棄物と有価物のどちらに分類されるかが争点となりました。
ある企業(以降企業A)は、豆腐製造業者から処理料金を受け取りおからの処理・運搬をしていました。企業Aは、産業廃棄物処理業の許可を有していないにも関わらず、おからを肥料・飼料化していたのです。
業者は「食品としても売られているおからは有価物であり、不要物には該当しない。そのため産業廃棄物として処理する必要はない」と主張しましたが、最高裁判所は「おからは不要物であり、産業廃棄物に該当する」と最終的に結論づけました。おからは腐敗しやすく生活環境に影響を与える可能性がある点や、ほとんどの豆腐工場がおからを廃棄物として排出している点などが決め手となりました。
水戸木くず事件
続いて、水戸木くず事件をご紹介します。この事件は木くずが有価物か産業廃棄物かが論点となった事件です。
解体作業や廃棄物の処理作業を担当する企業(以降解体企業A)は処理作業に伴い発生する木くずの処理を、処理費用を支払って破砕業者Bに依頼していました。破砕業者Bは、受け取った木くずを合板用チップや製紙用チップなど、利用できる形にして販売する企業です。
ここまでの一連の流れではなんら違法行為はありませんが、実は破砕業者Bは産業廃棄物処理業許可を受けていませんでした。これを受け、廃棄物処理法に違反する行為として裁判に発展し、解体企業Aは無許可業者への委託、破砕業者Bは無許可営業の件で罰則が科されることになります。
ここで破砕業者Bは、「木くずは加工して販売しており産業廃棄物ではなく有価物にあたるため、産業廃棄物処理業許可を受ける必要はない」と主張しました。第一審の地方裁判所ではこの主張が受け入れられ、破砕業者Bには無罪判決が下されることになります。木くずは一般廃棄物もしくは産業廃棄物として分類されますが、裁判では「通常の取り扱い形態」や「取引価値の有無」などに基づき有価物と判断されました。
この事件はここで終わらず、無許可業者への産業廃棄物の委託で略式裁判が確定した解体企業Aは、上記の判決を受けて再審請求を行います。「破砕企業Bの主張が受け入れられるなら、無許可業者への産業廃棄物の委託には該当しない」という主張です。
しかし第一審の判決とは異なり、解体企業Aの主張は退けられました。その根拠となったのが、解体企業Aが処理を依頼した木くずの量です。明らかに破砕企業Bの処理能力を超えて依頼しており、山積みになったチップから自然発火するなどの問題も生じていました。こうしたことを受け、解体企業Aが破砕企業Bに依頼した時点での木くずは産業廃棄物と判断されたのです。
徳島木くずボイラー事件
徳島木くずボイラー事件は、木造製品の加工・製造などを手掛けている企業(以降企業A)が、加工・製造過程で発生する木くずを自社のボイラー施設で燃料として再利用していた事件です。
徳島県はこの行為を問題視して、企業Aに対し産業廃棄物処理施設設置許可の取り消しや、施設の使用停止命令などの処分を決定しました。企業Aは「木くずは再利用しており、産業廃棄物にはあたらない」と主張し、裁判が行われたのです。裁判では当該施設と木くずを以下のように評価しています。
- 木くずがボイラーの燃料となるにふさわしい品質である
- 設備は木くずを燃料にするために設計・設置されたものである
- 木くずは需要に沿って排出されており、適切に保管や品質管理がされている
- 木くずを燃料とすることも、通常の取り扱い形態として認められる
- 木くずを処分する意思ではなく、燃料として再利用する意思がある
- ダイオキシン類の有毒物質が排出基準値を下回る
上記のポイントに基づき、木くずは産業廃棄物には該当しないと判断されました。最終的に、事業停止命令などの措置は取り消されています。
関東ミキシングコンクリート事件
最後にご紹介するのは、関東ミキシングコンクリート事件です。この事件は、関東ミキシングコンクリート社(以降K社)が販売し出荷していた「再生土」の取り扱いが問題となりました。
K社は同社で中間処理を施した汚泥を、有価物として450円/立方メートルで企業Aに販売していました。このときK社会は、輸送費と称して3,450円/立方メートルを企業Aに支払っています。
この事件は、K社は再生土を企業Aに販売しているものの、それ以上の金額の輸送費を負担している点が問題です。また企業Aは産業廃棄物処理業の許可を持っていません。つまりK社が販売した再生土は、無許可業者への廃棄物処理委託とみなすことができます。
この取引は逆有償で行われていること、再生土が適切な需要に基づき生産されていないことなどの観点から、廃棄物処理法に違反しているとして、K社は産業廃棄物収集運搬業の取り消しを受けました。
参考:一般社団法人千葉県環境保全協議会「産業廃棄物処理業者に対する行政処分について(通知)」(入手日付2024-01-19)
産業廃棄物と有価物の管理の課題
産業廃棄物と有価物の管理で課題となるのは、前者は明確に定義されているため判断しやすいのに対し、後者は判断が難しいケースが多い点です。実際に、ここまでご紹介したように産業廃棄物か有価物かが争点となった事例がいくつか挙げられます。
当事者が有価物と認識していても産業廃棄物となる場合は、委託する側は無許可業者への委託、委託される側は無許可営業だと判断され、それぞれに罰則が科されます。判断が難しい場合は当事者のみで判断するのではなく、地方自治体や政令市に確認するなどの対策が必要です。
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