
事業活動に伴い産業廃棄物を排出した事業者は、廃棄物処理法に基づき、年に一度「産業廃棄物管理票交付等状況報告書」を自治体へ提出する義務があります。これは、交付したマニフェストの実績を報告する重要な手続きですが、「そもそも、うちは提出対象?」「書き方が分からない」「もし提出を忘れたらどうなる?」といった疑問や不安をお持ちの担当者様も多いのではないでしょうか。

この記事では、産業廃棄物管理票交付等状況報告書について、その目的や根拠法令といった基本から、提出対象者、期限、具体的な書き方を様式の項目ごとに、そして提出を怠った場合の罰則に至るまで、初心者の方にも分かりやすく網羅的に解説します。この記事を読めば、報告書に関するあらゆる疑問が解決し、自信を持って手続きを進められるようになります。
目次
産業廃棄物管理票交付等状況報告書とは?
産業廃棄物管理票交付等状況報告書とは、排出事業者が前年度(4月1日から3月31日まで)に交付した産業廃棄物管理票(紙マニフェスト)の状況について、事業場を管轄する都道府県知事(または政令指定都市の市長)に報告するための公的な書類です。
提出フローチャート
報告制度の根拠法令と歴史的背景
この報告義務は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)の第12条の3第7項に定められています。この制度が導入された背景には、1990年代に深刻化した産業廃棄物の不法投棄問題があります。当時はマニフェスト制度の運用が徹底されておらず、排出された廃棄物が最終的にどこで処分されたか追跡できない「行方不明の廃棄物」が大量に発生しました。その反省から、行政が各事業者の廃棄物処理の状況を正確に把握し、監視を強化することで不法投棄などの不適正処理を未然に防ぐことを主な目的として、この報告制度が創設されました。
提出された報告書は、廃棄物のトレーサビリティを確保するための重要な基礎データとなります。排出事業者にとっては、自社の廃棄物管理体制を年に一度、客観的なデータに基づいて見直す良い機会となり、コンプライアンス遵守の意識を高める上でも重要な役割を果たしています。
報告書の提出対象となる事業者
報告書の提出義務があるのは、前年度に産業廃棄物管理票(紙マニフェスト)を1枚でも交付したすべての排出事業者です。事業の規模や業種、排出量に関わらず、マニフェストを交付した実績があれば対象となります。
建設業、製造業、医療機関、解体工事業など、産業廃棄物を排出する可能性のあるすべての業種が対象に含まれます。特に、現場ごとにマニフェストを交付する建設業などでは、本社だけでなく各事業場(現場)単位での管理と報告が必要になる場合があるため注意が必要です。
一方で、前年度に一度もマニフェストを交付しなかった事業者や、後述する電子マニフェストのみを利用している事業者は、この報告書の提出は不要です。
前年度の状況 | 報告書提出 | 備考 |
---|---|---|
紙マニフェスト交付あり | 必要 | 1枚でも交付すれば対象 |
電子マニフェストのみ | 不要 | JWNETが代行報告 |
マニフェスト交付なし | 不要 | 産業廃棄物未排出 |
紙・電子併用 | 必要 | 紙の分のみ報告 |
提出期限・提出先・提出方法
報告書の提出に関する基本情報は以下の通りです。自治体によって細部が異なる場合があるため、必ず事前に管轄自治体のウェブサイトをご確認ください。
2025年度スケジュール
対象期間(前年度)
提出期限
- 提出期限: 毎年6月30日までです。これは全国共通の期限であり、厳守する必要があります。対象となる期間は、前年度の4月1日~3月31日までの1年間です。
- 提出先: 事業場の所在地を管轄する都道府県知事または政令市長です。例えば、東京都千代田区の事業場なら東京都知事へ、大阪市の事業場なら大阪市長へ提出します。提出窓口は、自治体の「産業廃棄物対策課」や「環境管理事務所」などが担当します。
- 提出方法: 郵送または窓口への持参が一般的です。郵送の場合は、副本の返送を希望するなら、切手を貼付した返信用封筒の同封が必要な場合があります。近年は、東京都のように電子申請システム(オンライン提出)に対応する自治体も増えています。
【項目別】報告書の書き方を記入例付きで徹底解説
報告書の作成は、一見複雑に見えますが、項目ごとに整理すれば難しくありません。ここでは、環境省の定める「様式第三号」に基づき、具体的な記入例を交えながら作成手順を項目別に解説します。
記入項目 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
①廃棄物の種類 | 汚泥、廃プラなど | 正式名称で記載 |
②排出量(t) | 年間総量 | 小数点第3位まで |
③交付枚数 | マニフェスト枚数 | 委託先別に集計 |
④運搬受託者 | 許可番号・会社名 | 正確な情報を記載 |
⑤運搬先住所 | 処分施設の住所 | 運搬業者住所ではない |
⑥処分受託者 | 許可番号・会社名 | 正確な情報を記載 |
⑦処分場所住所 | 実際の処分場所 | ⑤と通常は一致 |
ステップ1:様式の入手と準備
まず、事業場を管轄する自治体のウェブサイトから、最新の報告書様式(ExcelやPDF形式)をダウンロードします。様式は全国で統一されていますが、自治体によっては独自の注意書きや、記入を補助する計算シートが用意されている場合があります。併せて、前年度1年分のマニフェストの控え(A票)を手元に準備し、集計作業を開始します。
ステップ2:報告者・事業場情報の記入
様式の上部には、報告者と事業場の情報を記入します。
- 報告者: 法人の場合は、登記上の本店所在地、法人名、代表者の役職・氏名を記入します。
- 事業場: 実際に産業廃棄物を排出した事業場の情報を記入します。建設工事など、排出場所が一時的な場合は、その現場の情報を記載します。
- 業種: 「日本標準産業分類」における中分類を記載します。例えば、一般的な工場であれば「製造業」、建設現場であれば「建設業」となります。自社の業種が不明な場合は、総務省のウェブサイトで確認できます。
ステップ3:産業廃棄物の排出状況の集計・記入(報告書の中心部分)
ここが報告書の中心です。前年度に交付した紙マニフェストをすべて集計し、以下の項目を「運搬委託先」「処分委託先」「廃棄物の種類」の組み合わせごとに、1行ずつ記入します。
- ①産業廃棄物の種類: 法律で定められた廃棄物の種類を正式名称で記入します。(例:廃プラスチック類、汚泥、がれき類)
- ②排出量(t): ①の種類ごと、1年間の合計排出量をトン単位で、小数点第3位まで(例: 15.500)記入します。体積(m³)で管理している場合は、換算係数を用いて重量に換算する必要があります。換算係数は自治体のウェブサイトで公開されていることが多いです。
- ③管理票の交付枚数: その組み合わせ(同じ委託先、同じ種類の廃棄物)に対して交付したマニフェストの総枚数を記入します。
- ④運搬受託者: 委託した収集運搬業者の許可番号、氏名または名称を正確に記入します。
- ⑤運搬先の住所: これは運搬業者の住所ではなく、廃棄物を運搬した先の「処分施設の所在地」を記入します。
- ⑥処分受託者: 委託した処分業者の許可番号、氏名または名称を正確に記入します。
- ⑦処分場所の住所: 実際に処分が行われた施設の所在地を記入します。⑤の運搬先の住所と通常は一致します。
もし、同じ種類の廃棄物を複数の業者に委託した場合は、業者ごとに分けて行を作成する必要があります。
【記入例サンプル】
産業廃棄物の種類 | 排出量(t) | 管理票の交付枚数 | 運搬受託者の許可番号 | 運搬受託者の氏名または名称 | 運搬先の住所 | 処分受託者の許可番号 | 処分受託者の氏名または名称 | 処分場所の住所 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
汚泥 | 15.500 | 30 | 1300123456 | 〇〇運輸株式会社 | 千葉県千葉市… | 1220123456 | 株式会社△△環境 | 千葉県千葉市… |
廃プラスチック類 | 8.200 | 25 | 1300123456 | 〇〇運輸株式会社 | 千葉県千葉市… | 1220123456 | 株式会社△△環境 | 千葉県千葉市… |
※出典:環境省「産業廃棄物管理票交付等状況報告書等の様式の統一等について」を基に作成
報告書の提出を忘れた場合の罰則と対処法
提出義務違反に対する法的な措置
産業廃棄物管理票交付等状況報告書の提出は、廃棄物処理法に定められた義務であり、単なる事務手続きではありません。もし正当な理由なく期限内に提出を怠った場合、行政は以下の段階的な措置を取ることができます。
段階的措置フロー
行政指導
事業者名等の公表
行政処分
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 勧告: まず、都道府県知事などから、報告書を提出するよう「勧告」が行われます。これは行政指導であり、この段階で速やかに対応すれば大事には至りません。
- 公表: 勧告に従わなかった場合、行政はその事実(事業者名、違反内容など)をウェブサイト等で「公表」することができます。企業の社会的信用を大きく損なう可能性があります。
- 命令: 公表後もなお勧告に従わないという悪質なケースでは、「措置命令」が出されます。これは行政処分であり、従う法的な義務が生じます。
- 罰則: 正当な理由なく措置命令にも違反すると、最終的に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という刑事罰の対象となる可能性があります。
「知らなかった」「担当者が忘れていた」では済まされないため、社内の管理体制を構築しておくことが不可欠です。
提出を忘れたことに気づいた場合の対処法
もし6月30日の提出期限を過ぎてしまったことに気づいた場合は、隠さずに、ただちに管轄の自治体の担当部署に電話で連絡し、その指示に従ってください。 悪意なく、単なる失念であった場合は、速やかに提出することで、厳しい措置を免れることがほとんどです。何よりも、発覚した時点で正直に相談し、誠実に対応する姿勢が重要です。
報告書提出が不要になる「電子マニフェスト」とは
毎年手間のかかるこの報告書ですが、実は提出が不要になる唯一の方法があります。それが「電子マニフェスト」の利用です。
電子マニフェストは、紙の代わりに、国が指定する情報処理センター(JWNET)のサーバーを介してマニフェスト情報を登録・管理する仕組みです。この電子マニフェストを利用した場合、情報処理センターが排出事業者に代わって、年間の実績を行政へ自動的に報告してくれます。そのため、排出事業者による年1回の報告書作成・提出義務そのものが免除されます。
報告が不要になる以外にも、マニフェストの5年間の保管義務がなくなる(サーバー上で保管される)、記入漏れや記載ミスを防げる、処理状況をリアルタイムで確認できるなど、多くのメリットがあります。報告書作成の負担をなくし、廃棄物管理業務全体を効率化したい場合は、電子マニフェストへの移行が最も有効な解決策となります。
項目 | 紙マニフェスト | 電子マニフェスト |
---|---|---|
年次報告書 | 作成・提出必要 | 提出不要 |
5年保管義務 | 必要 | 不要 |
記載ミス | 発生しやすい | システムがチェック |
処理状況確認 | 返送待ち | リアルタイム |
管理コスト | 高い | 低い |
よくある質問(FAQ)
Q1. 産業廃棄物管理票交付等状況報告書とは何ですか?
A1. 排出事業者が、前年度に交付した紙マニフェストの実績(種類、量、委託先など)を、年に一度、管轄の自治体に報告するための法律上の義務書類です。
Q2. 産業廃棄物管理票の交付が1枚だけでも報告は必要ですか?
A2. はい、必要です。前年度に紙マニフェストを1枚でも交付した場合は、報告書の提出義務が生じます。交付実績が全くない年度は提出不要です。
Q3. 提出を忘れるとどうなりますか?
A3. まず自治体から提出を促す「勧告」を受けます。これに従わないと事業者名が公表されたり、最終的には罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の対象となる可能性があります。気づいた時点ですぐに自治体に連絡し、指示に従ってください。
Q4. 排出量(t)の計算方法は?体積(m³)しか分からない場合は?
A4. 自治体が公表している「産業廃棄物の種類ごとの換算係数」を用いて、体積(m³)から重量(t)に換算します。例えば、「木くず 1m³ = 0.3t」のように、品目ごとに係数が定められています。必ず管轄自治体の指定する係数を使用してください。
産業廃棄物の種類 | 換算係数例 | 計算例 |
---|---|---|
木くず | 1m³ = 0.3t | 10m³ × 0.3 = 3.0t |
がれき類 | 1m³ = 1.5t | 5m³ × 1.5 = 7.5t |
廃プラスチック類 | 1m³ = 0.3t | 8m³ × 0.3 = 2.4t |
汚泥 | 1m³ = 1.0t | 12m³ × 1.0 = 12.0t |
注意書き: ※換算係数は自治体により異なります。必ず管轄自治体の係数をご確認ください
Q5. 間違えて提出してしまった場合、修正はできますか?
A5. 可能です。管轄の自治体に連絡し、修正報告書を提出したい旨を伝えてください。通常、修正箇所を明記した訂正後の報告書と、理由書などを添えて再提出します。手続きは自治体によって異なるため、必ず指示を仰いでください。
Q6. 混合廃棄物の報告はどうすればいいですか?
A6. 含まれる産業廃棄物の種類ごとに行を分けて記載する必要があります。例えば、「がれき類」と「木くず」の混合物を1枚のマニフェストで委託した場合でも、報告書上は「がれき類」の行と「木くず」の行をそれぞれ設け、それぞれの排出量を記入します。この際、マニフェストの交付枚数は、いずれか一方の行にまとめて記載するのが一般的です。
産廃事業者の年間スケジュール
まとめ
産業廃棄物管理票交付等状況報告書は、排出事業者の法的義務であり、適正な廃棄物管理の根幹をなす重要な手続きです。最後に、本記事の要点をまとめます。
- 報告の対象:前年度に紙マニフェストを1枚でも交付した全ての事業者。
- 提出期限:毎年6月30日。提出先は事業場を管轄する自治体。
- 作成方法:マニフェストの控えを基に、委託先ごと・廃棄物の種類ごとに正確に集計する。
- 罰則:提出を怠ると、勧告・公表・命令を経て、最終的に罰則の対象となるリスクがある。
- 解決策:電子マニフェストを導入すれば、報告書の作成・提出義務が免除される。
この記事を参考に、年に一度の報告業務を確実に行ってください。
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